「そんなにも別れたいなら
今すぐナイフで顔を切ってみろや
そこまでやったら納得したるわ」
わたしがこれまでにどんなに別れ話を出しても
絶対に別れてくれなかった
2月と3月に限界を感じたことが3回もあった
その都度別れ話を出しては5時間以上も泣きつかれて、
わたしは結局OKして続けてきた
また限界だと思った
「・・・わかった。」
顔を切って別れられるなら、
こんな楽なことはないと思った。
そういえば前にも別れ話の時、
慰謝料払えや、と言われて
まず手元にあった10万を渡して
あげると言った。
それで足りないなら月3万ずつ振り込む、
それで別れてと言った。
30万や50万で別れられるなそれでいいと本気で思った。
現金を目にしたら
あんなにもキレまくっていたのにころっと態度が変わってそう、
あの日も泣きつかれたんやった。
そんなこと本気で思ってないって。
金なんか要らんから、ただ一生俺のそばに居て欲しいだけやねん、て。
わたしは台所までナイフを取りに行って、
あの日彼がしたように切ってみようとした。
まず腕で試してみようと思った。
ナイフの先ではなく、刃の付け根というのか、
あの辺りをグッと腕に押し付けながら引いてみた。
確かによく切れた。
切る直前に彼は青ざめて
止めろ!
と飛んできてわたしの手首を強くつかんだ。
もう、遅かった。
何年か前のあの感覚を思い出してしまってわたしは
次から次に切りたくなった。
今思い出しても顔がにやけるのだけど
一度腕を切ったら、楽しくなって
次は何で、どう切ろうか、
どんな痛みが走るのか、
どんな風に腫れて癒えて行くのか
試したくなり、見たくなるのだ。
彼は半狂乱だった。
泣きながら止めろ、と言ってわたしを制止しようとしたけど
ナイフを取り上げられたわたしはすぐにテレビの裏に置きっぱなしになっていたはさみを思い出し、
そこに行ってギリリとやった。
彼はまた泣いて止めてくれと言った。
わたしがさっき使ったナイフは、握れないように彼が折ってしまった。
残念だと思った。
彼はわたしが動けないようにきつく抱きしめた。
何でもよかった。
自分の体に傷を付けられるものなら何でもよかった。
手の届くところにつまようじが見えた。
それでよかった。
彼に気づかれないようにそれをつまんで、
彼を抱きしめ返すかのように腕を交差させ、
思いっきりそれで引っかいた。
心配そうに見つめる彼が気づいていないことがおかしくて仕方なかった。
「ユマ子?
大丈夫か?
・・・どうしたん?
何?その表情・・・。
笑ってるようにも見える・・・」
わたしは辛い、という表情で彼を上目遣いで見ていたのだけど
笑いが堪えきれなくなっていたんだろう。
「何でもないけど?」
と腕を離して、
彼が気づいてまた狂っていた。
お前何でやった?!
こんなもので?!
ごめんて、
お願いやからやめて、
そんなこと絶対したらあかん、
今までのこと全部謝る
自分でわかってる
もうユマ子を傷付けへんから、
お願いやからやめてくれ
これは日曜の朝の話で、
現実なのでバイトの時間が刻々と迫る。
わたしがバイトに行こうとすると
彼は何をするかわからないから絶対に行かせないと言った。
腕に5本、赤く腫れ上がった線をつけたままわたしは
バイトの制服に着替え行くと聞かなかった。
ちょうどバイトの時間が過ぎた頃に店長から怒りの電話がかかってきて
いくら彼が行かせないと言っても無理なことはわかったようで
仕方なさそうに
心配やから今日も俺が送り迎えするから、
と彼が着替えている間に、
折ったから、使えないから大丈夫と思ったのか
彼がデニムを出そうと後ろを向いた一瞬の間に
無防備に置いてあったナイフに手を伸ばし、
折れた方を腕に押し当て思いっきり引いてみた。
右利きだから
傷がつくのはいつも左腕だった。
だから左で切ったら、
上手く力が入るのか知りたくなって
左で持って、右腕をやった。
なかなかの傷ができた。
もしこれを右手でやっていたら
もっとすごいのができたんやろうと思うと
面白くて仕方なかった。
そして折れた刃の凶暴さに惚れた。
とにかくおかしくってさっきまで
無表情だったのにまた笑いがこみ上げていて
その表情を見た彼は
ハッとした顔をしてわたしの腕を見た。
「また、やったんか!
もう、ごめんて、お願いやめて」
と泣いた。
わたしはどうでもいいと思い、
半袖の制服からは
何本もの醜い線が出ていたけれど、
それでバイトに向かった。
バイトが終わってわたしが見たのは、
迎えにきた彼の腕にタオルのようなものが巻いてあって
そこから、ものすごく黒っぽい「赤」が、したたっているというものだった。
よく見たら彼の着ているベストにもデニムにもその赤がダラダラとついていた。
周りの人たちは随分楽しそうに、
興味深そうにわたしたちを見ていた。
そいつら全員死ねばいいと思った。
彼から流れる大量の出血にわたしは少しも驚かなかった。
ただ半笑いで
「何しとん」
と言って鼻で笑った。
「こうしたら、ユマ子、許してくれるかなと思って。
ユマ子の痛さを知ろうと思って」
彼の表情には怯えと媚びがあった。
わたしにすがりつくような顔で見てきた。
「そんなん全く意味ないし、興味ない。
それより傷、見たい。
どんな風になってるん?
どんな風にしたん?」
ワクワクしながら笑顔でそれを聞いたら
彼はものすごく悲しそうな顔をして見せてくれた。
そういえばあの日わたしが笑っていたのって
腕を切っている時と、
その傷を眺めている時だけだった。
今すぐナイフで顔を切ってみろや
そこまでやったら納得したるわ」
わたしがこれまでにどんなに別れ話を出しても
絶対に別れてくれなかった
2月と3月に限界を感じたことが3回もあった
その都度別れ話を出しては5時間以上も泣きつかれて、
わたしは結局OKして続けてきた
また限界だと思った
「・・・わかった。」
顔を切って別れられるなら、
こんな楽なことはないと思った。
そういえば前にも別れ話の時、
慰謝料払えや、と言われて
まず手元にあった10万を渡して
あげると言った。
それで足りないなら月3万ずつ振り込む、
それで別れてと言った。
30万や50万で別れられるなそれでいいと本気で思った。
現金を目にしたら
あんなにもキレまくっていたのにころっと態度が変わってそう、
あの日も泣きつかれたんやった。
そんなこと本気で思ってないって。
金なんか要らんから、ただ一生俺のそばに居て欲しいだけやねん、て。
わたしは台所までナイフを取りに行って、
あの日彼がしたように切ってみようとした。
まず腕で試してみようと思った。
ナイフの先ではなく、刃の付け根というのか、
あの辺りをグッと腕に押し付けながら引いてみた。
確かによく切れた。
切る直前に彼は青ざめて
止めろ!
と飛んできてわたしの手首を強くつかんだ。
もう、遅かった。
何年か前のあの感覚を思い出してしまってわたしは
次から次に切りたくなった。
今思い出しても顔がにやけるのだけど
一度腕を切ったら、楽しくなって
次は何で、どう切ろうか、
どんな痛みが走るのか、
どんな風に腫れて癒えて行くのか
試したくなり、見たくなるのだ。
彼は半狂乱だった。
泣きながら止めろ、と言ってわたしを制止しようとしたけど
ナイフを取り上げられたわたしはすぐにテレビの裏に置きっぱなしになっていたはさみを思い出し、
そこに行ってギリリとやった。
彼はまた泣いて止めてくれと言った。
わたしがさっき使ったナイフは、握れないように彼が折ってしまった。
残念だと思った。
彼はわたしが動けないようにきつく抱きしめた。
何でもよかった。
自分の体に傷を付けられるものなら何でもよかった。
手の届くところにつまようじが見えた。
それでよかった。
彼に気づかれないようにそれをつまんで、
彼を抱きしめ返すかのように腕を交差させ、
思いっきりそれで引っかいた。
心配そうに見つめる彼が気づいていないことがおかしくて仕方なかった。
「ユマ子?
大丈夫か?
・・・どうしたん?
何?その表情・・・。
笑ってるようにも見える・・・」
わたしは辛い、という表情で彼を上目遣いで見ていたのだけど
笑いが堪えきれなくなっていたんだろう。
「何でもないけど?」
と腕を離して、
彼が気づいてまた狂っていた。
お前何でやった?!
こんなもので?!
ごめんて、
お願いやからやめて、
そんなこと絶対したらあかん、
今までのこと全部謝る
自分でわかってる
もうユマ子を傷付けへんから、
お願いやからやめてくれ
これは日曜の朝の話で、
現実なのでバイトの時間が刻々と迫る。
わたしがバイトに行こうとすると
彼は何をするかわからないから絶対に行かせないと言った。
腕に5本、赤く腫れ上がった線をつけたままわたしは
バイトの制服に着替え行くと聞かなかった。
ちょうどバイトの時間が過ぎた頃に店長から怒りの電話がかかってきて
いくら彼が行かせないと言っても無理なことはわかったようで
仕方なさそうに
心配やから今日も俺が送り迎えするから、
と彼が着替えている間に、
折ったから、使えないから大丈夫と思ったのか
彼がデニムを出そうと後ろを向いた一瞬の間に
無防備に置いてあったナイフに手を伸ばし、
折れた方を腕に押し当て思いっきり引いてみた。
右利きだから
傷がつくのはいつも左腕だった。
だから左で切ったら、
上手く力が入るのか知りたくなって
左で持って、右腕をやった。
なかなかの傷ができた。
もしこれを右手でやっていたら
もっとすごいのができたんやろうと思うと
面白くて仕方なかった。
そして折れた刃の凶暴さに惚れた。
とにかくおかしくってさっきまで
無表情だったのにまた笑いがこみ上げていて
その表情を見た彼は
ハッとした顔をしてわたしの腕を見た。
「また、やったんか!
もう、ごめんて、お願いやめて」
と泣いた。
わたしはどうでもいいと思い、
半袖の制服からは
何本もの醜い線が出ていたけれど、
それでバイトに向かった。
バイトが終わってわたしが見たのは、
迎えにきた彼の腕にタオルのようなものが巻いてあって
そこから、ものすごく黒っぽい「赤」が、したたっているというものだった。
よく見たら彼の着ているベストにもデニムにもその赤がダラダラとついていた。
周りの人たちは随分楽しそうに、
興味深そうにわたしたちを見ていた。
そいつら全員死ねばいいと思った。
彼から流れる大量の出血にわたしは少しも驚かなかった。
ただ半笑いで
「何しとん」
と言って鼻で笑った。
「こうしたら、ユマ子、許してくれるかなと思って。
ユマ子の痛さを知ろうと思って」
彼の表情には怯えと媚びがあった。
わたしにすがりつくような顔で見てきた。
「そんなん全く意味ないし、興味ない。
それより傷、見たい。
どんな風になってるん?
どんな風にしたん?」
ワクワクしながら笑顔でそれを聞いたら
彼はものすごく悲しそうな顔をして見せてくれた。
そういえばあの日わたしが笑っていたのって
腕を切っている時と、
その傷を眺めている時だけだった。
コメント
今、すごくユマをギュッと抱きしめたくて仕方ないです。
なんかどんどん落ちて行ってるから不安。ナノも心情的に理解できるから。
ナノの腕や足にも傷がいっぱいある。
できればユマさんには傷がのこることしてほしくないよ。
毎週1-2回こんな風に追い込まれてるので
精神がガタガタになってきてる気がして
そっちの方がしんどいです(^^;