気が狂っている。

「な、知ってるか?
　よく見とけよ。
　こうしたら、切れへんし
　こうしたら、こうなるけど切れにくい。
　だけどここをこうして、こうしたら
　ほら。こうなるやろ。
　こう。
　ほら。
　ほら。
　ほら。
　なっ。
　お前が俺をこうさせてるねんで。
　よく見とけよ。」

ナイフで足を切って
5本の腫れあがった赤い線が出来た彼は
さっきまで見開いていた目をこちらに向けて
わたしの顔を見た瞬間
その目をうっとりさせて

ユマ子ぉ〜
ユマ子って何でそんなに可愛いん？
ユマ子ってほんまえぐいわ。
残酷やわ。
でも残酷であればあるほど
綺麗って思うし可愛いって思う。
今なんか今までで一番に綺麗で可愛いって思う。
なぁ〜
何で俺をここまでさせるん？
ユマ子は傷つけるのが好きな人？
何でそんなに綺麗で可愛いん？
何でそんなに俺を傷つけるん？
ユマ子といると、しんどくて苦しい。
こんなんなったの初めてでどうしていいのかわからん。

と言って、顔を摺り寄せ頭をなでた。
そしてナイフを自分の腹に当てたままわたしにキスをしようとした。
その顔はわたしのことが愛しくて仕方ないという顔だった。
だけど彼がキスをしながら何をするかはわかっていた。

わたしがそのナイフの刃を握って

「やめなさい」
と言ったら

「怪我するからお前は触るな」
と切れた。

「ユマ子、ほんまに可愛い。
　キスしたい。
　一瞬でいいから目つぶって」

一瞬だけ、本当に一瞬だけ目をつぶって開けたら
ナイフが彼の首に向かっていた。

「だから(＾＾)
　やめなさいって」

わたしがぐっとナイフを握ったから
彼は諦めた。

彼が帰ってきた時の顔を見た瞬間
まず
包丁を隠そう、きっとその方がいい
と思った。
わたしのあの直感は外れていなかった。
あの包丁ならあんな傷ではすまないはずで
わたしが握って平気なはずはなかった。

彼の足からは血が流れていたけれど
もうこの手のことは変に慣れてしまって
全く動揺しなくなってしまっていた。

昨日彼がナイフで腹を突き破ったとしても
救急車も呼ばなかったと思う。
普通に寝て、普通に起きて、
普通に仕事に送り出したと思う。

わたしは彼にウソもついていなくて
裏切ってもいなくて
それなりに誠意を見せていて
自分の出来る範囲最大で努力して
ただ愛しているだけなのに
わたしはうそつきで信用ならなくて全く努力をしていなくて
彼のことを一切愛していなくてただ暇つぶしで彼と付き合っているだけで
傷つけるのが大好きなサディストで限りのない男好きなんだと言う。

だからイラついて仕方なくなって
自分でわけがわからなくなって
わたしを傷つけて
わたしが傷ついたら今度は罪悪感で自分を傷つける。

気が狂っているとしか思えない。

彼がいくら血を流しても
全く驚くことも心配することもないわたしもどうかしてしまっているんだろう。